もう20年近く前になるけど、仕事でプロジェクトに必要な人工(にんく)について業者から提案を受けていたとき、実作業とは別に、プロジェクトの管理のために3割くらい上乗せする必要があるという話を聞いた。
かなり昔の話だから本当に3割と言っていたかどうかすら怪しいが、僕のなかでは3割という具体的な数字も込みで心に残っている。
考えれば考えるほど3割というのはいい線をいっているように思う。2割だと上乗せ分が僅かな誤差に見えなくもない。4割だとほぼ半分が上乗せという感じになる。
重要だが、あくまで従としての管理業務が占める割合が全体の3割というのは妥当なところだろう。
誤差として無視はできないけれど、主たるものに匹敵するほどでもない。3割という数字にはそんな丁度よさがある。
主たる実作業が7割で従たる管理作業が3割だから、これを7:3の法則と名付けることにする。

思うに、7:3というちょうどよさは、色々なところで使える気がするのだ。
世の中のたいていの物事は、本体は7割で、残り3割は付属物だったり、余計なものだったりするのではないか、という気さえしてくる。
仕事を10時間するなら、3時間分の作業は、手直しや、余計な調整のため、無駄なものになると覚悟しておいたほうがいい。
相手に説明し、完全に共通認識に至ったように感じたとしても、3割は通じていないと見積もったほうがいい。
結婚式で永遠の愛を誓っても、3割は誓いきれない側面があると思ったほうがいい。

これらの例は、理想を夢見る人への悲しいお知らせのように思えるかもしれない。または、物事の裏を知ってしまった大人が吐き捨てたセリフのように感じるかもしれない。「人生ってこんなもんだよ」なんて。
確かにそんな側面もある。二度と挫折感を味わないためには、先回りしてワクチン接種のように無力感を事前に感じておくほうがいい。そんな類の話としても解釈できる。
だが、もっとポジティブなものとして活用できる解釈があることを見過ごすべきでない。
想定外が3割あると思っておくことで、不意打ちを避け、よりうまく対処することができる。敵は絶対海から攻めてくると思っていても3割は陸から攻めてくることもありうると心構えをしておくことができる。または7割は攻めてきても3割はそもそも攻めてこないこともありうるという想定もできる。
更にポジティブな解釈もできる。きちんと仕事をすれば、その労力の7割は活きたものになるし、言葉を尽くせば7割は理解してもらえるし、7割は愛を誓うことができる。7:3の法則によれば7割は無駄にならないということもかなり重要だ。
また、この法則は、何かを選択するときは、7:3のうちの7割として選択しており、3割を捨てているということも思い出させてくれる。3割を捨てた分、7割を精一杯がんばろうと思う。
現実を見据えて想定外の心構えをしつつも、未来の理想に向かって一歩踏み出すことを後押ししてくれる。それが、7:3の法則であるとも言える。