2種類の占い (「タロットの逆位置問題」のコンパクト版)

これは、昨日書いた「タロットの逆位置問題」をコンパクトにして、哲学濃度を下げたものです。
あと、逆位置の細かい分析も省いています。

1 はじめに

これから僕は、占いには2つの種類があるという話をします。

ひとつが、未来や誰かの心といったような、普通のやり方では関わることができないものについて、少しでも知ろうとして行う占いです。これが占いというものの一般的なイメージだと思います。

もうひとつ、これまであまり意識されてこなかったものとして、何かを知ることにはつながらないけれど、自分自身の力で道を切り開くことを促すような占いがあることを指摘したいと思います。

2 知るための占い

世の中はわからないことだらけです。

今目の前で起こっていること、例えばペットボトルが机の上にあるということはわかるし、過去に見聞きしたこと、例えばイギリスの首都はロンドンだということはわかるし、未来についても、常識的なこと、例えば氷を冷凍庫から出したままにしておけば溶けて水になることはわかります。

だけど、一週間後に具体的に何が起こるかはわからないし、今、遠く離れた地で何が起きているかはテレビで生中継をしていない限りはわからないし、目の前にいる人が何を考えているかもわかりません。

わからなくても、自分に関係がないなら放っておいていいけれど、自分自身の未来や、身近な人が考えていることは、自分に関係があるからなんとか知りたくなります。常識や科学に基づく通常のやり方では無理と知っていても、なんとか知りたくなります。

占いとは、そんな願いを叶えるためにこそあるのでしょう。

占いとは知るためのツールなのです。

(それ以外にも、友人とわいわい初詣でおみくじを引くときのようなコミュニケーション・ツールとしての占いや、テレビの情報番組の星占いランキングのような暇つぶしとしての占いのように、単なる楽しみとしての占いもありますが、それらは考慮に入れないこととします。)

3 僕が提案するおみくじ占い

では、知ることにつながらない占いなど、ありえないのでしょうか。

そこで僕は、思考実験として、現実に存在するかどうかは別として、こんな占いを提案してみることにします。

それは、ただ、価値中立的なキーワードが書いてあるだけのおみくじです。

普通、おみくじには「大吉」とか「探し物は見つからない」なんて書いてありますよね。だからそれを読んだ人は喜んだり、残念に思ったりします。

だけど、僕が考案したおみくじには、例えば「無邪気」というような価値中立的な言葉だけが書いてあります。これでは何も具体的なことを知ることはできません。「無邪気」がいいことなのか、悪いことなのかさえもわかりません。付き合い始めたばかりの彼女と末永く付き合っていけるか占った人が、ただ「無邪気」と書かれたおみくじを引いたら、多分とまどうでしょう。無邪気になったらいいのか、無邪気すぎてはいけないということなのか、わからないのですから。僕は、こんな、少し風変わりなおみくじを提案することにします。

なぜ僕は、戸惑わせるだけの、役に立たなそうな占いを提案したのでしょうか。

実はそれは、ただ戸惑わせるだけでなくて、役に立つと思うからです。

彼女との将来が気になり「無邪気」というおみくじを引いた人は、その後どのように生きていくでしょう。

変なおみくじだったなあ、と忘れ去ってしまうかもしれないし、面白いおみくじだったと友達と楽しく話し、単なる楽しみとして消費するだけかもしれません。

だけど、もし、その占いの結果を真剣に受け止めたのであれば、「無邪気」という言葉を心にとめて生きていくのではないでしょうか。

彼女とデートをしている間、自分を観察して、もう少し無邪気にしてもいいのかな、無邪気すぎたかな、なんて反省したりして。または彼女を観察して、彼女の無邪気なしぐさに気づいたりして。

そのようなものとしてなら、僕が提案したおみくじだって少しは役立つのです。

だけど、そんな微妙なおみくじよりも、やっぱり大吉とか凶とか出たほうが役に立つ感じがしますよね。大吉だったから、ちょっとセールで買い物しちゃおう、とか、凶だから早めに家に帰ろう、というように具体的な行動に反映することができるのですから。

でも、僕が提案したおみくじの方にも長所があるのです。

まず、絶対に外れることはありません。実際は大吉なんかじゃなかったと思うことはあっても、実際は無邪気さについて気にする必要なんてなかった、と後悔することはありえません。

また、結果に一喜一憂することもありません。おみくじを開いて「無邪気」と書いてあったら、ピンとこなくて???と思うことはあっても、落ち込むことはありえません。

僕が提案するおみくじは、そんな、占いにとって宿命的とも思える弱点を克服しつつも、しっかりと人生に役立ってくれるのです。いいと思いませんか?少々盛り上がりに欠けますが。

4 僕が提案する占いの役立ち方

なんとなく僕が提案するおみくじもいいな、と思ってくれた方がいるかもしれないので、そんな方に念のための注意喚起です。

この占いは、人生に役立つと言ったけれど、その役立ち方は少々特殊です。

普通の占いで大吉だったなら、その占い結果が、どこかから幸せな未来を連れてきてくれて、じゃあセールで買い物しちゃおう、というような直接的な行動につなげてくれます。逆に凶という結果が、不運な未来を連れてくることもありますが。

一方で、僕が提案するおみくじ占いは、「無邪気」に着目するといいよ、と生きるうえでの注目すべきポイントを示し、アドバイスしてくれるだけです。そのアドバイスを活かして良い人生にするか、逆に悪い人生にしてしまうかは、本人の努力次第です。占いは手を貸してくれません。

前者は、子どもに色々と世話を焼いてくれる優しいお母さんのようなもので、後者は、厳しいコーチのようなものだと例えることができるでしょう。

時々は緊急避難的に、占いに未来を示してもらって安心し、親に守られるようにして癒やされることも必要でしょう。だけど結局、自分の人生は自分自身で切り開くしかないのならば、厳しいコーチからアドバイスをもらうような占いもいいのではないでしょうか。

5 優れた占い師

ここまでの僕の話に同意いただき、僕が提案するような占いの効用を認めたとしても、そんな占いなんて現実には存在しないではないか、と思われるかもしれません。確かに「無邪気」と書かれているだけのおみくじなど実在しません。あくまで思考実験です。

しかし、実は、多くの占いに、僕が主張したような要素は含まれています。

おみくじやテレビの星占いランキングなどの簡単な占いは別にして、対面式の占いの多くは、ただ本人の努力と関係なく確定的な未来を示すだけではありません。

例えば「来年は体調を崩すかもしれないから気をつけなさい。」なんて言われることがあります。これは、体調に気をつければ体調を崩す事態を避けられることを意味します。先ほどの僕が提案するおみくじの例でいくなら、「来年の体調」とだけ書かれたおみくじを引いたようなものです。

僕は、2種類の占いがあると言いましたが、より正確には、占いには2種類の側面があると言ったほうがいいでしょう。多くの占いには、優しいお母さんのように未来を示して癒やしてくれる側面と、厳しいコーチのようにアドバイスし奮起を促すという2つの側面とがあるのです。

そして、優秀な占い師とは、多分、その2つの側面を自由に使い分け、状況に応じた適切な占いが自然にできるような人のことを言うのだと思います。

6 タロットの逆位置

そうは言っても、世の中の占いは、主に、未来を示して安心させてくれるような要素が大きく、厳しい要素なんてわずかではないかと思うかも知れません。

確かにそうなのですが、実は、厳しいコーチのような占いにかなり近いものが現にあります。逆位置を使わないタロット占いがそれです。

と言ってもピンとこないかもしれないので、最後に、タロットの逆位置のことを説明して、この文章を終えたいと思います。

タロット占いでは、逆位置を使う占い師と使わない占い師がいます。使うかどうかで、カードの解釈の仕方が大きく変わってきます。

具体例で説明すると、タロットカードの最初のカードである愚者のカードは「無邪気」を象徴しています。

逆位置を使わない場合には、この象徴、つまり「無邪気」をそのまま解釈とします。

一方で、逆位置を用い、逆位置と正位置を分けて解釈する場合には、その象徴から解釈が派生します。愚者のカードが正位置に出たら、それは無邪気さが素直に発露されたと捉え、ポジティブな自由などを意味するものと解釈します。逆位置に出たら、無邪気さが歪んだかたちで発露されたと捉え、軽率や気まぐれなどを意味するものと解釈します。場合によっては逆位置が正位置とは真逆の意味を持ち、消極や臆病を意味することもあります。

このように、逆位置を使うほうが、明らかに解釈が複雑になります。だから、複雑になるのを嫌って、逆位置を使わない人も多いようです。

一方で、タロットの創始者?が逆位置を使う手順で解説書を書いていることから、伝統的に逆位置を使う人も多いようです。

だけど僕には、あえて逆位置を使うのには、歴史的な事情とは別な理由があるように思えます。逆位置を使うことで、正位置の結果と、逆位置の結果というふたつの解釈が導かれるのがポイントです。

つまり、ふたつの解釈をとることで、タロットを、吉と凶があるおみくじと同じようなものにすることができるのです。愚者のカードなら、正位置が吉で、逆位置が凶となります。塔のカードなら、正位置が凶で、逆位置が吉となります。

これで、タロットでも、多くの人が望むような、未来を示し、優しいお母さんのように癒やしてくれる占いをすることができます。最近うまくいっていない恋人との未来を占っていて、愚者のカードが正位置で出たなら安心するし、逆位置で出ても、運命で決まっていたのだと諦めることができる、というように。

こんな占いを望む人は多いのではないでしょうか。

だけど、僕には、正直、それだけではつまらないのです。

逆位置を用いないやり方で占い、愚者のカードが出たなら、ただ「無邪気」と解釈することになります。これは僕が思考実験で用いたおみくじと全く同じです。

僕にはこのような潔い占いのほうが魅力的なのです。

「これがあなたの人生の課題なのだよ。そこから先、どのように解釈し、どのように行動するかは、あなた次第だよ。」と厳しいコーチに言ってもらったほうが、気合が入るのです。たまにはお母さんのような占いもいいのですが。

どうしても僕には、お母さんのような占いに頼り切ってしまうのは安易すぎるように思えてしまいます。

タロット占いにおいて逆位置を導入し、複雑な解釈を強いられるのは、安易に流れた代償なのではないかとさえ思えます。もともとのタロットが持つ力を歪めたからこそ、逆位置の解釈が混乱に陥ってしまったということです。

そこまで言わなくても、逆位置を用いないタロット占いは、優しいお母さんのような側面だけではなく、厳しいコーチの側面を引き出しやすい特徴を備えおり、そこに独特の魅力があるのは確かだと思います。

この特徴を活かした占いがもっと広まるといいなあ、と僕は思うのですが、どうでしょうか、占い師の皆様。

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